台湾プロ野球データベース コラム集

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2015ドラフトを振り返る 義大ライノス

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指名選手

1巡目 林哲瑄 26外 右右 高知ファイティングドッグス

2巡目 倪福德 32投 左左 米独立カムデン・リバーシャークス

3巡目 黃亦志 22投 右右 國訓

4巡目 于孟雄 22内 右左 國訓

5巡目 羅華韋 24投 左左 國訓

6巡目 林政賢 19投 左左 中國文化大學

7巡目 林威廷 19捕 右左 南英商工

8巡目 羅國麟 22外 右右 國立體育大學

9巡目 彭世杰 18投 右右 中興高中

10巡目 石翔宇 18内 右右 南英商工 

11巡目 陳泓亦 22投 右右 台灣體育大學

 

・寸評

史上最多93名が名を連ねた今年の職棒ドラフト。その中にあって真っ先に名前が消えるのは誰か?大方の予想では倪福德または蔣智賢の2人に絞られていたが、監督に就任したばかりの葉君璋率いる義大上層部が下した選択は蔣智賢と共に今季は高知で汗を流した元メジャーリーガー林哲瑄だった。

林哲瑄を1巡目で指名した意図はいうなれば外野守備、センターラインの強化だった。打撃に関しては今季四国アイランドリーグでも34試合 .230 2本 3打点と振るわないもののWBC台湾代表のCFを任された実績があり、守備範囲と判断能力に関しては依然として素晴らしいものを見せている。

また現在チームが抱える守備の問題にも目を向ける必要がある。今季チームは3Bに既に10人もの選手を起用するなどポジション固定に苦慮し、加えて打撃ではずば抜けた成績を残している外野手も胡金龍は肩の弱さ、高國輝は古傷の脊髄すべり症の再発、そして張建銘は35歳という年齢が懸案事項である。内外野の守備の連係がとれず、見えないエラーも多かったとして興農で12年途中まで監督を務めた劉榮華を内外野守備コーチに招聘するなど守備力の強化を狙っていた葉君璋にとってこの選択は現状を鑑みれば至極当然の選択だったと言えるのかもしれない。蔣智賢を1巡目指名しなかった理由について「彼のポジションは義大の現状の選手のポジションと重なる」とコメントしたことからも攻撃と守備のバランスを重視した指名を行ったといえそうだ。

2巡目では全球団の補強ポイントでもある先発左腕として倪福德を指名。球団は外国人先発3名の後の先発4番手として起用したい考えとのこと。球団は本来宋家豪を1巡目で指名する方針だったとの話もあるが、その中にあっての倪福德指名は前期に見せた台湾人先発投手のパフォーマンスの悪さ、後期へ向けての即戦力を獲得したい意図があってのことだろう。

3巡目で指名の黃亦志はスライダーをアウトピッチにカーブ、チェンジアップを投じる先発右腕も制球とメカニクスに課題がありプロではリリーフにまわりそう。今年10月に兵役を終えるため出場は来季からとなる。

4巡目の于孟雄は捕手と一塁以外のポジションを守った経験があり平均以上の走力とコンタクト能力を兼ね備えるため大学時代は2、9番を打つことが多かった巧打者タイプ。近年は外野手中心での出場が多いが外野手の競争が特に激しい義大では2B、SSとして林瑋恩や林威廷を脅かす存在となれば面白い。

5巡目の羅華韋は最速93マイルのストレートと130kmを超えるチェンジアップが武器も180cm、75kgと体躯が細く、制球に課題を残す。入団後の起用法は明らかではないが黃勝雄、賴鴻誠、羅政龍といった同タイプの左腕がチームでくすぶっている現状を見るとあまり多くは期待できない。

同じく左腕投手の林政賢はストレートはほとんどが130km台もナックルカーブを操る器用さ、ストレートのノビ、そしてストレートとチェンジアップの球種の判別がつきにくい点が評価されており、まだ19歳ながらベテランのような投球を見せる技巧派左腕だ。職棒でプレーするにはもう少しストレートの球速を高めたいところ。

奇しくも義大の内野手と同姓同名となった林威廷は高卒捕手であり、高校時代は3番を打つことが多く加えて俊足。義大の捕手は20台後半に4名が集中しているため、彼らが主力として機能している間に徐々に育ってもらえれば御の字か。

8巡目の羅國麟は全員が職棒でプレーする「羅一家四兄弟」の末っ子で、長男である高國輝とチームメートに。下半身がしっかりとしており球種を問わずフルスイングし強打者の片鱗を見せる一方、課題は守備範囲が広くないディフェンスでCFを守っていた際は両コーナーの選手がカバーに入ることもしばしば。球団は3Bの人材不足を解消しようと彼に三塁を守らせる方針で、職棒での出場機会を得るため大学4年から守り始めた内野がどこまで板につくか注目したい。

9巡目の彭世杰は高卒ながらスプリットをアウトピッチとする右腕で最速140kmを超えるストレートを投じる。今後の伸びしろに期待したい。

10巡目の石翔宇も同じく高卒の内野手。高校時代は主にSSを守りながら稀にリリーフ投手として登板もこなした。打順は主に2番を打ち作戦遂行能力を備え加えて1B、2B、3Bも守れることからプロでも便利屋ポジションとして活路を見いだせるか。

最後の指名となった陳泓亦は10~13年までツインズRkに所属し先発とリリーフを共にこなしながら高い奪三振能力と制球の良さを見せた右腕。しかしながら147km出したこともあると本人が語る速球も大学の春季リーグでは140km前後に留まり、今年に入ってドラフトの為に全球団の練習に参加した結果でのこの指名順位は何か問題があると球団側から判断されてのものだろう。あまり多くの期待はできない。

 

・今後の展望

義大のドラフトは1巡目と2巡目を見ても分かるように即戦力重視のドラフトを展開した。後期シーズン、また来年を見据えれば林哲瑄を獲得したことで胡金龍、高國輝、張建銘とレギュラーを常時張れる外野手が4名となり、余った1人をベンチで休ませる或は以前から可能性を指摘されていた胡金龍1Bコンバートプランも実現しやすくなった。その一方で打力に今一つ乏しい内野手(2B、3B、SS)は2人の指名に留まり、大きな弱点となっている3Bは羅國麟をコンバートさせて凌ぐ算段では解決の糸口が見えたとは言えない。そして投手も先発として倪福德はある程度の計算が見込めるが、彼以外の即戦力である羅華韋は前述したように球団が粗さの残る左腕の育成を苦手としていることからプロでの活躍には不安が残り、黃亦志も今一つ安定感に欠ける中でリリーフとしての頭数に来年から数えるのは心もとない。全体としては外野のデプスがかなり厚くなり(控えには林旺衛、張詠漢、高孝儀ら)不足していた台湾人先発を補った分、1B以外の内野、加えてリリーフ投手の弱点は変わらず放置された形となった。「林哲瑄は毎試合3点分打てるとは限らないが、彼の外野守備はもっと多くの失点を防げる」とは葉君璋監督。前期リーグワーストの363失点をマークした投手力、守備力を改善し後期こそ優勝の二文字を2年ぶりに奪還できるか注目したい。

今年の「打高投低」はどこから導かれたか~データと現場の声から推察する~

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 6月に入り、今季の職棒も早くもシーズンの3分の1を消化。前期の優勝争いもラミゴと義大の一騎打ちの様相を呈しており佳境に入っている。

 そのような中でファンから聞こえてくるのは「今年は打高投低のシーズンだ」との声。そしてファンのみならず台湾メディアも度々今年のシーズンを同じように捉え多くの記事を出している。記事の中にはこの現象の原因を推察するものや選手、首脳陣の声を聞いたものも多く含まれているため、当記事ではそれらも踏まえながらどのような要因が現状に繋がっているのかを解明していきたい。

 

1.今季の基本データ(2015年度のスタッツは全て6/1時点)

・打率、出塁率長打率OPS推移(4球団制以降)

年度打率出塁率長打率OPS
2009 0.287 0.352 0.409 0.757
2010 0.262 0.322 0.347 0.669
2011 0.285 0.349 0.390 0.739
2012 0.287 0.355 0.399 0.755
2013 0.282 0.339 0.376 0.714
2014 0.274 0.331 0.367 0.698
2015 0.299 0.363 0.422 0.784

 

 ・HR数推移(4球団制以降)

年度HR数
2009 323
2010 159
2011 238
2012 265
2013 193
2014 209
2015 *372

*2

 

防御率推移(4球団制以降)

年度防御率
2009 4.58
2010 3.27
2011 4.26
2012 4.37
2013 3.85
2014 3.72
2015 4.92

 

 4球団制となった09年以降では今季がこれまでで一番の打高だった09年を超えるペースであることが分かるであろう。ここまでで今季の打高投低ぶりを把握したところで、ここから筆者が立てた仮説を細かく検証していくこととする。

 

2.打高投低の要因

①狭まり、可変するストライクゾーン

 今季は開幕からストライクゾーンの縮小が話題となっており、これによって投手不利、打者有利の環境が出来上がっているという声が多い。以下に選手及び監督の声を見てみよう。

謝長亨前監督(中信兄弟)「今年のストライクゾーンは上下はそれほど変わらないが、ホームプレートの両サイドが去年より狭くなっている。縦方向の変化球中心の投手にとっては影響は大きくないが、横方向の変化球中心の投手にとっては不利だ。一度ボールと判定されれば真ん中のコースに投げるしかない。そうなると打者有利になってしまうだろう。」

    中職/好球帶小了? 林煜清滑球變吃虧 | 棒球 | 運動 | 聯合新聞網

郭泓志(統一)「外角の吊球のようなボールはストライクゾーンが狭くなったので打者が簡単に手を出さなくなった。」

    頻出包 郭董:要適應好球帶 | 蘋果日報

羅嘉仁(義大)「ストライクゾーンが狭いことは問題ではないが、固定されなければならない。そうでなければボールがストライクになったり、ストライクがボールになったりしてどこに投げればいいのか分からなくなってしまう。」

    中華職棒/好球帶變小?投捕都有話要說 | NOWnews 今日新聞

 

 やはり今年のストライクゾーンは狭くなっていると見て間違いないだろう。13年~今年の3年間のK/9、BB/9の推移を見てみるとK/9は5.39→5.90→5.88、BB/9は3.09→2.60→3.37となっており三振の数こそ大きく減少はしていないもののやはり四球が大きく増加しており各投手が変化したストライクゾーンに適応できていない可能性は十分考えられる。

 また海の向こうのMLBでは投高打低を改善するため来季からのストライクゾーン変更(拡大)が議論されているが、

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これと同じくして職棒でも12年を境に進んできた投高打低に拍車をかけるため同様の手段で改善しようとしている、と見ることも可能ではないだろうか。加えて職棒では外角のコースは「外角海」と呼ばれ外にボール1、2個分ほど広くストライクを取るという傾向がありこれが投手を助けていた側面があったが、この「外角海」も今年は少なくなっているように感じる。とはいえテレビを通して見る分にも不安定な判定が多く見ている方がやきもきするのも事実であり、審判団には狭くなってからのゾーンの固定を強く求めたいところだ。ちなみに開幕当初は「ボールが変わったのではないか」という声もあったが中華職棒公式のfacebookページが否定、以降ボールについての議論は沈静化した。*4(使用球は長らく使われているSAKURAI990。ただしCPBLから公式に反発係数の発表はされていない。)

 

②長打を見込める選手の復調

 6/1時点で本塁打ランキング1位(14本)の高國輝(義大)は昨年も18HRを放ち本塁打王のタイトルを獲得した職棒きっての長距離打者であるが、昨年は何と前期は脊髄すべり症の手術からのリハビリのため一試合も出場はなく、一軍初出場は後期に入った7/13、出場僅か52試合であれよあれよとタイトルホルダーにのし上がった。その彼が今年は開幕からコンディション良く出場を続けており彼のHR数だけで職棒全球団のHR数の9.7%を占めるという事実は今季の本塁打数の激増に大きく関与していると見てよいだろう。また昨年のシーズン中ドラフトで加入し後期から試合に出場した陳俊秀(ラミゴ)も長打力を期待されながら昨年は26試合で2本にとどまったが今年は既に7本。出塁率IsoD)と比較して長打率IsoP)の上昇が大きい背景にはこのような事情がある。

 

③中信兄弟が採用した「外国人野手2人制」

 今季の外国人選手の起用法で注目すべきは中信兄弟が採った「外国人野手2人制」である。これは中信兄弟が例年台湾人野手だけで構成された打線は長打力と得点力不足に苦しみ、投手陣と守備に強みを持っていてもそれを生かしきれなかったことによる措置である。投手中心に外国人を獲得するCPBLでは4チーム制になった09年以降初めてのことで、この「賭け」が果たしてどのような結果をもたらすのかファンの注目が集まった。2Bの耐克は42試合 .346 1本 24打点 OPS.851、SSの佩卓(既に解雇)は36試合 .303 7本 21打点 OPS.867と平均以上の成績は両者共に残したが、これにより投手陣が手薄となり、1枠しか占められなかった外国人投手も布萊文斯が9試合 4勝4敗 ERA6.47、寇迪が2試合 1敗 ERA14.54と振るわず、昨年の防御率1位(3.59)だったチームは6/2現在でリーグワーストの5.44と投手力の優位性を失った。また例年続く貧打からの得点力アップが期待された打線もリーグワーストの233得点と外国人野手2人制に期待された結果は出ていない。例年充実した投手力と守備力に強みを持っていた中信兄弟のこうした変化もCPBLが4球団という少ない球団数であることを踏まえれば打高投低に少なからず関与していると言えるだろう。なお中信兄弟は後期からは例年通りの外国人投手2人、野手1人の構成に戻すことがほぼ確定的だ。

 

④投手陣のレベルの低下

 CPBLではKBOと同じく外国人は3名まで登録可能(同時出場は2名まで)となっている。しかしながらKBOと異なり3名のうち投手のみまたは野手のみの登録も可能なため、殆どの球団が台湾人選手が順調に育たない投手に全て枠を用い、結果的に台湾人投手の育成をますます阻害してしまう負のスパイラルに陥っている。先発投手においては外国人投手が1人のみの兄弟を除いては台湾人先発投手の防御率が外国人先発投手よりも悪いのは当然ながら、*5台湾人投手が多くのイニングを投げている救援投手においては特に今季顕著に苦しんでいる様子が見てとれる。

 昨年の救援防御率はそれぞれラミゴが3.67、義大が3.86、中信兄弟が3.73、統一が4.05であり、統一を除いては全て2点以上の悪化と惨憺たる状況といっても過言ではない。先発投手が早くマウンドを降りた後、救援投手が相手打線の火に油を注いでしまっているのも打高投低に拍車をかけていると言えよう。以前は台湾人投手の不足を語る際には主に先発投手に照準が置かれて議論をされてきた印象だが、ここに来て数字を残せる台湾人救援投手まで少なくなっているのが現状である。(特に20代以下で数年間継続した活躍を見せる投手が極めて少ない)各球団6月末に行われるドラフトで当然救援投手の補強を狙うと見られるが、 この惨状がどこまで改善されるか注目である。

 

 5月中旬から中信兄弟の監督代行を務める吳復連は力のある台湾人先発投手が不足している原因についてこのように指摘している。

「新しい世代の台湾人投手はプロ野球の高いレベルに耐えることができない。それは主に高校野球では木製バットを用いていることでレベルの高い投手の育成が難しくなっていることに原因がある。高校の打者は木製バットを上手く使いこなせないために投手は制球さえ良ければ球速が速くなくとも抑えられてしまう。高校の投手が今の球威だけで木製バットでプレーする野手を抑えられてると分かればそれ以上レベルを高めようとは思わず、現状で満足してしまう。打者が金属バットを用いるようになれば投手は球速とボールの質を高める努力をするようになり、レベルアップするだろう。そうしてこそプロ野球に良い台湾人投手が入ってくるようになる。」

中職本土王牌投手斷層 吳復連建議青棒改打鋁棒 | ETtoday體育新聞 | ETtoday 新聞雲

 吳復連はここでは主に台湾人先発投手についての指摘をしているものの、これは先発、救援の域を問わず全ての台湾人投手に通じるものであるとも感じる。台湾では04年に「早いうちに木製バットに慣れるため」という理由から高校野球の試合では全て木製バットを使用しているが長打が少なくミート中心の打撃、バントを重視した戦術になりがちで、投手は前述の理由からレベルが向上せず、また守備においても強い打球が少ないためレベルが向上しないのではという声もある。*6

 

  ここまで4点、考えられる今年の打高投低の要因について見てきたが大まかに各項目について見てきたため詳細な分析ができているとは言い難い。特に④の投手陣のレベルの低下についてはまた新しい記事を通して細かく見ていきたいと思う。