台湾プロ野球データベース コラム集

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今年の「打高投低」はどこから導かれたか~データと現場の声から推察する~

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 6月に入り、今季の職棒も早くもシーズンの3分の1を消化。前期の優勝争いもラミゴと義大の一騎打ちの様相を呈しており佳境に入っている。

 そのような中でファンから聞こえてくるのは「今年は打高投低のシーズンだ」との声。そしてファンのみならず台湾メディアも度々今年のシーズンを同じように捉え多くの記事を出している。記事の中にはこの現象の原因を推察するものや選手、首脳陣の声を聞いたものも多く含まれているため、当記事ではそれらも踏まえながらどのような要因が現状に繋がっているのかを解明していきたい。

 

1.今季の基本データ(2015年度のスタッツは全て6/1時点)

・打率、出塁率長打率OPS推移(4球団制以降)

年度打率出塁率長打率OPS
2009 0.287 0.352 0.409 0.757
2010 0.262 0.322 0.347 0.669
2011 0.285 0.349 0.390 0.739
2012 0.287 0.355 0.399 0.755
2013 0.282 0.339 0.376 0.714
2014 0.274 0.331 0.367 0.698
2015 0.299 0.363 0.422 0.784

 

 ・HR数推移(4球団制以降)

年度HR数
2009 323
2010 159
2011 238
2012 265
2013 193
2014 209
2015 *372

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防御率推移(4球団制以降)

年度防御率
2009 4.58
2010 3.27
2011 4.26
2012 4.37
2013 3.85
2014 3.72
2015 4.92

 

 4球団制となった09年以降では今季がこれまでで一番の打高だった09年を超えるペースであることが分かるであろう。ここまでで今季の打高投低ぶりを把握したところで、ここから筆者が立てた仮説を細かく検証していくこととする。

 

2.打高投低の要因

①狭まり、可変するストライクゾーン

 今季は開幕からストライクゾーンの縮小が話題となっており、これによって投手不利、打者有利の環境が出来上がっているという声が多い。以下に選手及び監督の声を見てみよう。

謝長亨前監督(中信兄弟)「今年のストライクゾーンは上下はそれほど変わらないが、ホームプレートの両サイドが去年より狭くなっている。縦方向の変化球中心の投手にとっては影響は大きくないが、横方向の変化球中心の投手にとっては不利だ。一度ボールと判定されれば真ん中のコースに投げるしかない。そうなると打者有利になってしまうだろう。」

    中職/好球帶小了? 林煜清滑球變吃虧 | 棒球 | 運動 | 聯合新聞網

郭泓志(統一)「外角の吊球のようなボールはストライクゾーンが狭くなったので打者が簡単に手を出さなくなった。」

    頻出包 郭董:要適應好球帶 | 蘋果日報

羅嘉仁(義大)「ストライクゾーンが狭いことは問題ではないが、固定されなければならない。そうでなければボールがストライクになったり、ストライクがボールになったりしてどこに投げればいいのか分からなくなってしまう。」

    中華職棒/好球帶變小?投捕都有話要說 | NOWnews 今日新聞

 

 やはり今年のストライクゾーンは狭くなっていると見て間違いないだろう。13年~今年の3年間のK/9、BB/9の推移を見てみるとK/9は5.39→5.90→5.88、BB/9は3.09→2.60→3.37となっており三振の数こそ大きく減少はしていないもののやはり四球が大きく増加しており各投手が変化したストライクゾーンに適応できていない可能性は十分考えられる。

 また海の向こうのMLBでは投高打低を改善するため来季からのストライクゾーン変更(拡大)が議論されているが、

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これと同じくして職棒でも12年を境に進んできた投高打低に拍車をかけるため同様の手段で改善しようとしている、と見ることも可能ではないだろうか。加えて職棒では外角のコースは「外角海」と呼ばれ外にボール1、2個分ほど広くストライクを取るという傾向がありこれが投手を助けていた側面があったが、この「外角海」も今年は少なくなっているように感じる。とはいえテレビを通して見る分にも不安定な判定が多く見ている方がやきもきするのも事実であり、審判団には狭くなってからのゾーンの固定を強く求めたいところだ。ちなみに開幕当初は「ボールが変わったのではないか」という声もあったが中華職棒公式のfacebookページが否定、以降ボールについての議論は沈静化した。*4(使用球は長らく使われているSAKURAI990。ただしCPBLから公式に反発係数の発表はされていない。)

 

②長打を見込める選手の復調

 6/1時点で本塁打ランキング1位(14本)の高國輝(義大)は昨年も18HRを放ち本塁打王のタイトルを獲得した職棒きっての長距離打者であるが、昨年は何と前期は脊髄すべり症の手術からのリハビリのため一試合も出場はなく、一軍初出場は後期に入った7/13、出場僅か52試合であれよあれよとタイトルホルダーにのし上がった。その彼が今年は開幕からコンディション良く出場を続けており彼のHR数だけで職棒全球団のHR数の9.7%を占めるという事実は今季の本塁打数の激増に大きく関与していると見てよいだろう。また昨年のシーズン中ドラフトで加入し後期から試合に出場した陳俊秀(ラミゴ)も長打力を期待されながら昨年は26試合で2本にとどまったが今年は既に7本。出塁率IsoD)と比較して長打率IsoP)の上昇が大きい背景にはこのような事情がある。

 

③中信兄弟が採用した「外国人野手2人制」

 今季の外国人選手の起用法で注目すべきは中信兄弟が採った「外国人野手2人制」である。これは中信兄弟が例年台湾人野手だけで構成された打線は長打力と得点力不足に苦しみ、投手陣と守備に強みを持っていてもそれを生かしきれなかったことによる措置である。投手中心に外国人を獲得するCPBLでは4チーム制になった09年以降初めてのことで、この「賭け」が果たしてどのような結果をもたらすのかファンの注目が集まった。2Bの耐克は42試合 .346 1本 24打点 OPS.851、SSの佩卓(既に解雇)は36試合 .303 7本 21打点 OPS.867と平均以上の成績は両者共に残したが、これにより投手陣が手薄となり、1枠しか占められなかった外国人投手も布萊文斯が9試合 4勝4敗 ERA6.47、寇迪が2試合 1敗 ERA14.54と振るわず、昨年の防御率1位(3.59)だったチームは6/2現在でリーグワーストの5.44と投手力の優位性を失った。また例年続く貧打からの得点力アップが期待された打線もリーグワーストの233得点と外国人野手2人制に期待された結果は出ていない。例年充実した投手力と守備力に強みを持っていた中信兄弟のこうした変化もCPBLが4球団という少ない球団数であることを踏まえれば打高投低に少なからず関与していると言えるだろう。なお中信兄弟は後期からは例年通りの外国人投手2人、野手1人の構成に戻すことがほぼ確定的だ。

 

④投手陣のレベルの低下

 CPBLではKBOと同じく外国人は3名まで登録可能(同時出場は2名まで)となっている。しかしながらKBOと異なり3名のうち投手のみまたは野手のみの登録も可能なため、殆どの球団が台湾人選手が順調に育たない投手に全て枠を用い、結果的に台湾人投手の育成をますます阻害してしまう負のスパイラルに陥っている。先発投手においては外国人投手が1人のみの兄弟を除いては台湾人先発投手の防御率が外国人先発投手よりも悪いのは当然ながら、*5台湾人投手が多くのイニングを投げている救援投手においては特に今季顕著に苦しんでいる様子が見てとれる。

 昨年の救援防御率はそれぞれラミゴが3.67、義大が3.86、中信兄弟が3.73、統一が4.05であり、統一を除いては全て2点以上の悪化と惨憺たる状況といっても過言ではない。先発投手が早くマウンドを降りた後、救援投手が相手打線の火に油を注いでしまっているのも打高投低に拍車をかけていると言えよう。以前は台湾人投手の不足を語る際には主に先発投手に照準が置かれて議論をされてきた印象だが、ここに来て数字を残せる台湾人救援投手まで少なくなっているのが現状である。(特に20代以下で数年間継続した活躍を見せる投手が極めて少ない)各球団6月末に行われるドラフトで当然救援投手の補強を狙うと見られるが、 この惨状がどこまで改善されるか注目である。

 

 5月中旬から中信兄弟の監督代行を務める吳復連は力のある台湾人先発投手が不足している原因についてこのように指摘している。

「新しい世代の台湾人投手はプロ野球の高いレベルに耐えることができない。それは主に高校野球では木製バットを用いていることでレベルの高い投手の育成が難しくなっていることに原因がある。高校の打者は木製バットを上手く使いこなせないために投手は制球さえ良ければ球速が速くなくとも抑えられてしまう。高校の投手が今の球威だけで木製バットでプレーする野手を抑えられてると分かればそれ以上レベルを高めようとは思わず、現状で満足してしまう。打者が金属バットを用いるようになれば投手は球速とボールの質を高める努力をするようになり、レベルアップするだろう。そうしてこそプロ野球に良い台湾人投手が入ってくるようになる。」

中職本土王牌投手斷層 吳復連建議青棒改打鋁棒 | ETtoday體育新聞 | ETtoday 新聞雲

 吳復連はここでは主に台湾人先発投手についての指摘をしているものの、これは先発、救援の域を問わず全ての台湾人投手に通じるものであるとも感じる。台湾では04年に「早いうちに木製バットに慣れるため」という理由から高校野球の試合では全て木製バットを使用しているが長打が少なくミート中心の打撃、バントを重視した戦術になりがちで、投手は前述の理由からレベルが向上せず、また守備においても強い打球が少ないためレベルが向上しないのではという声もある。*6

 

  ここまで4点、考えられる今年の打高投低の要因について見てきたが大まかに各項目について見てきたため詳細な分析ができているとは言い難い。特に④の投手陣のレベルの低下についてはまた新しい記事を通して細かく見ていきたいと思う。